21 チャレンジ★これができたら100万円


「上空5000メートルから落とした1枚のティッシュペーパー」

「ふんふん」

「それを、地上に突き立てられた1本のミシン針が貫く確率は、果たしてどれほどだと思うね」

「はて、どうでしょう」

「答えは単純は話だ。ゼロパーセントだよ。そんなこと起こり得るわけがない」

「なるほど」

「考えても見たまえ。上空5000メートルだよ。1枚のティッシュペーパーだよ。1本のミシン針だよ。無理に決まっているじゃないか」

「おっしゃるとおりで」

「私はね、現代科学界には『ゼロパーセント』をもっと尊重する必要があると思っている。限りなくゼロに近い可能性?そんなもの、ゼロパーセントだと言ってしまえば話は早いではないか」

「まったくです」

「ところがどうだ。やつらはこう言う。『高確率のものは、すなわち現在である。ゼロコンマ数パーセントのものは、すなわち未来である』。やつらは挑戦を美徳とし、失敗を美談とする。ばかげた話だ。『勝算はある。ゼロコンマ数パーセントだが』だと?それはないのと一緒ではないか。しかし言うのだ。『科学の歴史は無数の失敗という屍の上に成り立っている。無駄が積み重なって起こるゼロコンマ数パーセントの奇跡、それが科学である』。ばかげた話だっ」

「そのとおり」

「私はね、思うのだよ。確かに、科学のダイナミックな発展は思わぬ奇跡に寄る辺を求めるものであろう。しかしそれは、頭の悪い低確率へのチャレンジによって巻き起こるものではない。高確率で確かな現実事象の反芻によって引き起こせるものなのだ。新たな技術や大胆な仮説など必要ない。そこに必要なのは、確かな技術と正しい理論だ。真なる革新派は一体誰であるか。科学者どもは何も理解しておらんのだ」

「同感です」


 月が天頂に位置付こうとしていた。聞き役に徹した私は、もうかれこれ3時間ほど、ユード・ダ・デルセルス博士のありがたいお話を拝聴していることになる。最初ふすまに挟まって往生しているじょうろ蜘蛛に見る死生観の禅問答から話が始まったときには一体この先どうなって行くのだろうと、話が終わった後の自分の姿を想像して脂汗が噴出しかけたものだったが、直後私が苦し紛れに言い放った「おいしいお茶ですね」という言葉に強烈に反応したユード博士は「それは私が企画開発した新しい緑茶で・・・」と本人の発明品についての談話やら発明に対する熱い思いやらなんだかそんな感じで聞き流して差し支えないことを講じてくれるようになったのでこれ幸いとばかりに私は今酔ったクレーム客に応対するベテランホテルマンの気構えで27杯目の緑茶を頂いているわけである。前回の別れ方から長話になるであろうことは想像に難くなかったし、そもそも私は意外と我慢強いのである。

 そろそろいい頃合いか。

「ところでユード博士。実は彼女から手紙を預かっていまして」

 ビ、ビクリ。





前へ   次へ





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送