0 ぬえ!



「困るんだよね。うちの責任にもなっちゃうからさー」

「うっさい」

「うっさいって・・・法律で決まってんでしょ。
 こないだ新しくできた法律、知ってるでしょ」

「うっさいなぁ。これだからこの古本屋は嫌だって言ったのに。
 ・・・ちょっと、静かに。ほら見てて。マルスが、純文学に目覚めるよ」

「だーかーら。目覚めさせちゃダメでしょ。はいはい、没収ね」

 わからず屋の店主は本を取り上げた。

「・・・ナ、ナナナナ、ナーー」

 マルスが激情にたぎる胸をかきむしりながら叫ぶ。

「ちょっ、ちょっと何すんの。半端なところで止めるから・・・」

「ナナ、ナナーーー、ナナーーナナナ・・・ナ。

 ・・・ぬえ」

「ぬえ」

「ぬえ」

 私と店主は顔を見合わせた。

「読めた」

「あーあーあ・・・読めちゃった」

 女が読ませていた本は、【鵺とおひつ】。

 そしてマルスは純文学に目覚めた!




純文学少年、マルス





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