10 科学と神学の融合―科学者のもとにこそ神は舞い降りる―
『生まれたての子猫のように愛くるしく、そして賢く目覚めたマルスを独り占めしたいがために考えた法律だった』
ユード・ダ・デルセルス博士は、NGO組織IMPC(国際マルス保護センター)の特別顧問のポストを辞任し、国際法は再考の余地有りとして撤回された。多分野における相次ぐボンゴリー・トップ・ジーマン博士との競り負けで心身ともに疲れ果てたユード博士は、唯一の癒しを与えてくれるマルスに強い思慕の念を抱いた。その並々ならぬ情熱がマルス研究の分野でボンゴリー博士を差し置きIMPC特別顧問の座を掴み取ったまでは良かったものの、独占欲が悪法を生み出し、自己顕示欲が足を掬った。
それを暴いたのは日本のインターネット掲示板の口コミ情報であった。
そしてその最初の書き込みを行ったのは私で・・・
「あたしの手柄でござる」
本当の第一発見者は彼女だったわけだが、その真相は誰も知らない。
マルスを救った。その事実がそこにありさえすれば、私たちは何も要らないのだ。
「一から出直す」と言ったユード博士に対し、「一まで戻る必要はない。見誤った地点へ戻りさえすれば良い。貴方の研究の蓄積は容量が大きすぎてゴミ箱に入りきらない。ぜひリサイクルを」という匿名の激励メッセージが送られたそうだ。それがボンゴリー博士によるものであることは誰の目にも明らかであったが、博士は最後まではぐらかし続けていたという。
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