19 禁止区域へいざなう影法師



 あの一件の次の日、ユード・ダ・デルセルス博士は再び我が家を訪れ、さらなる会議が開催された。その結果ユード博士は我が家への出入りはおろか、私たちと連絡を取ること自体をも禁じられてしまった。もちろん彼女によって。 それ以来博士は姿を見せていない。あれから一週間以上経ち、彼女の怒りもようやく静まったのであろう。その中で、少し言いすぎたという思いが少なからず浮かび上がってきたようだ。しかしこちらから「あなたの言動を全面的に禁止します」と理不尽気味な啖呵を切った手前、恥ずかしくて直接和解しに行こうにもどうにも足が上手に曲がらない。思い切って手紙をしたためて、しかもそれを私に運ばせて、あわよくば自分は旅行へと逃げ去って、楽しく過ごして帰って来た頃にはすっかり我が家へ再び訪れるようになっているユード博士とばったり出くわして「あら、いたの」と言わんとでもするような、そんな目で彼女は私を見つめた。口ほどに物を言いすぎる目だ。

 しかし、私だってユード博士に会うのは気が引ける。これが世界レベルの憤怒かと衝撃を受けるほどに怒髪天を衝いた雰囲気で部屋を出て行ったユード博士だが、階段を降り、道路を渡る頃には、すっかりしょぼくれた様子が背中から見てとれた。奇しくも彼女は、2度もユード博士を叩きのめした大変な女性となってしまったのである。もちろん、マルス保護法序文を指摘したのが彼女だと言うことは博士本人には伝えていないが。

「・・・自分で、」
「お願いっ」

「だって・・・それに博士の家、行ったことないし」
「行ってくれるんだっ」

 しまった。しかし、博士のあの威厳も矜持も失った斜陽かかるちっぽけな影を思い出すと、やはり様子を伺って早い所関係を修復した方が良いだろうという気はする。いくら何でもあれで絶縁してしまっては、出会って数日という関係からも、同じマルスを愛するという共通項を持つ関係からも、相手が失墜してしまったとは言え世界的な権威でありこちらは一宇部人という関係からも、少々大人気がなさ過ぎるというものだ。

「でしょ。私、ちゃんと手紙書いたから」
「自分で行った方が早、」
「ありがとうっ」

 彼女はご丁寧に博士の家までの地図を描いて渡してくれた。斜め向かいに歩けばすぐ見える家なのだが。

「あなたの心の準備に時間がかかると思って。少し遠回りするルートを作ってみたの」









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