18 にくにくQのマルスは目覚めていない



 明日、ついに彼女とマルスは旅立ってしまう。

「よし、昼ごはんは終わりっ。夜は早く寝たいから適当に買って来て済ませるね。・・・でさぁ・・・」

 何でもないような会話の最後になぜか少々控えめな、けれど確かに要求めいた「でさぁ」が別添されていたことに私は気付いてしまったが、気付かないフリをした。彼女のこう言う時の「でさぁ」は、得てして悪霊を召喚するときの呪文のような禍々しさを醸し出している。無論今回も・・・

「お願いがあるんだけどさぁ・・・」

 しまった。これはただの呪文ではない。高等悪魔さえ召喚するかなりの高位呪文だ。逃げなければただでは済まされない。私は何かきっかけを作ろうと部屋を見回す。そうだ。マルス。マルスはどこだろう。マルスの手を取り少し散歩に行こうじゃないか。

「ひぃ」

 マルスはカーテンの陰で昼寝中だった。ミイラのように干からびたタン状態のマルスを直視してしまった私は声にならない声を上げ、思わず顔を背けた。背けた先には、彼女がいた。

「あのね」

 まずい。左腕の袖を掴まれた。逃げられない。私は左脳をフルサイクルさせてこれから起こる大爆発(エクスプロージョン)について考えを巡らせた。明日出発・・・まだ昼・・・マルスは仮死状態・・・困ったこと・・・荷物は準備できている・・・今日の晩御飯・・・豪華な物を食べてスタミナをつけておきたい・・・肉が食いたい・・・国産が・・・国産松坂牛が・・・しかし彼女は旅行費用でこれ以上出費はできない・・・だからと言って生活費にも余裕はない・・・まさか・・・私が先日宝くじでこっそり1万円当てていたのを知って・・・ばかな・・・隠していたはずでは・・・しかし・・・肉を買うなら金が・・・知っている・・・彼女は・・・私の1万円を・・・知っている・・・

「ま、ま、待って。今日『にくにくQ』は休みだよ。ほら、毎月第2、4金曜は家族&マルスサービスのため休業じゃないか」

「何言ってるの。私お肉なんていらない。そうじゃなくてね」
 彼女は戸棚から小さな便箋を取り出した。

「ユーじさんちにさぁ、これ持ってってほしいの」









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