5 パラフィリアの僕と大渦蝸牛



 その日は明け方から雨が降って、空気がじとじととしていた。

「あっ」

 僕が見かけたのは表の木の枝にくっつくカタツムリだ。

「・・・でかい」

「・・でかー」


 そのカタツムリは今まで見たどのカタツムリよりも大きかった。車のタイヤくらいの大きさの殻を持っている。これだけの大きさで木の枝が折れないのが不思議だ。殻が大きいだけで、中身はカラなのか? 殻がカラ。あっはっは。


 世間ではこの頃、マルスとやらが流行し始めているらしい。でも僕はそれが何かを知らない。知っているのは「マルス」、その言葉だけだ。「マ」と「ル」と「ス」、その三つの音から成る言葉の響き。それが一体どういうもので、流行するに足る理由が果たしてあるのかどうか、この響きから想像することはやや難しい。

 窓の外はまだ雨が降っている。止む気配はない。嫌になる。実は、外の天気を知らずに洗濯機にかけられた洗濯物が、洗濯籠の中でお日様の光に当たることを今か今かと待ち侘びているのだ。


「まだかな?」

「まだだろうなー」

 昨日の予報では今日は晴れるはずだったのに。目が覚めてからすぐ干せるようにとわざわざタイマーをかけておいた自分が愚かしい。

「・・・まぁ、仕方ないか」

「仕方ないね。ただ、夕陽が出てただけだもの」


 陽の目を見ることなくこの洗濯物たちは、再び洗濯機の中でぐるぐる回されることになりそうだ。





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